研究内容

 本グループの研究テーマを紹介します。この他にも取り組んでいるテーマはありますので,プラズマやカーボン系薄膜に興味のある方は,お気軽にご連絡ください。また,プラズマやダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜について知りたい方は,こちらをご覧ください。

高摺動性硬質カーボン膜の超高速成膜

 DLC膜は,硬質であることから母材摩耗を防ぐ表面保護膜として有用です。加えて,非常に低い摩擦係数を持つため,摺動(滑って動く)製品の表面にコーティングすることで,オイルフリーでエネルギー損失を低減可能な環境・省エネ材料です。

 優れた機械的特性を有するDLC膜ですが,膜形成には真空環境が必要であり,その成膜速度も遅いために,一部の高付加価値製品にしか取り入れられていません。本グループでは,真空中のガス流を利用したプラズマCVD法により,従来法より一桁以上高速なDLC形成を可能にするガスインジェクションパルスプラズマCVD法を開発しています。DLC成膜速度2.5 μm/min以上,ナノインデンテーション硬さ18 GPaと,DLCの優れた機械的特性を有したまま,超高速な形成が可能です。

 

室温強磁性カーボン膜の作製

 2015年に新しい炭素同素体として報告されたQカーボン(Quenched carbon: Q-carbon)は,c-c sp3結合割合の高いアモルファスカーボンです。新しい材料であるため未知の特性も多いですが,硬質(ダイヤモンド以上)・室温強磁性・高温超伝導性(Bドープ)など,従来材料以上の高機能表面保護膜や次世代デバイス材料になり得る可能性を持っています。
 本グループでは,薄膜Qカーボンのプラズマプロセス合成に取り組んでいます。Qカーボンの合成例はいまだ少なく,その合成方法はナノパルスレーザーアブレーション法に限りられています。プラズマプロセスによってQカーボン膜が合成可能になることで,材料としての応用に劇的な進展が期待できます。

 

高生体適合性カーボン膜中の酸素量制御

 DLC膜は化学的に安定な材料であり,生体に悪影響を与えない高い生体適合性を持ちます。この特性を活用し,ペットボトル内側のガスバリアコーティングや歯科インプラントに使用するインプラント体の表面コーティングに用いられています。生体材料としてのDLC膜では,膜表面の酸素量が細胞活性や細胞付着性に影響を与えていると考えられています。

 本グループでは,一酸化炭素(CO)ガスを原料に用いたDLC膜を作製しています。COガスを用いることで膜中に酸素を含むDLCが得られ,プラズマ制御によって膜中の酸素量を増減させます。膜表面だけでなく,膜内部にも酸素を持つことで,生体材料としての機能を安定的に保持することが可能です。

 

硬質カーボン膜の選択的ドライエッチング技術の開発

 DLC膜のナノ加工技術は,半導体製造プロセスにおけるマスク材としてのDLC膜の適用や,DLCコーティング面へのさらなる機能性付与技術として求められています。カーボン膜であるDLC膜は,薬品を用いずに,酸素プラズマによって容易にエッチングする(削る)ことが可能です。

 エッチング対象領域がナノサイズになると,プラズマが潜在的に有するゆらぎ(不均一性)が顕著になります。本グループでは,エッチング領域にナノ構造を形成し,このゆらぎを積極的に顕在化・利用することで,DLC膜の選択的エッチングを可能にしています。