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プラズマエネルギーシステム研究室

豊橋技術科学大学

電気・電子情報工学系

滝川研究室

低圧アーク放電法によるMWNTの合成(雰囲気ガスの影響)










Uploaded July 03, 2014
Carbon Nanotube Synthesis in Low Pressure Carbon Arc Discharges

 1991年にカーボンナノチューブが発見されましたが,それは,フラーレンを合成する低圧カーボンアーク放電において,フラーレンの合成にとってはゴミと考えられていた陰極堆積物中に発見されました。ナノチューブを合成する手法として,最も古いのがアーク放電法です。

      

 
 低圧チャンバの中に2本の黒鉛(グラファイト)電極を対向させて配置し,それらの先端でアーク放電を発生させます。よく見ると,黒鉛電極が配置させてある様子が見えます。電極間隔は2mm程度です。電極間隔を一定に保つために,片方の電極はモータで送り出す工夫をしてあります。また,フラーレンを合成したときと同様に,内部には同心円状の水冷ジャケットが内蔵してあります。


 上の装置内で発生させたアーク放電の様相です。左が陰極(−),右が(+)の黒鉛電極です。右の陽極からプラズマが激しく発生している様子がわかります。電極間隔を数mm程度に短くするとこのような激しいプラズマが発生します。電極間隔を長くすると,プラズマはおとなしくなります。
 アーク放電を維持・持続させるため,陰極からは電子が放出されます。この電子は陽極に流入します。従って,電子を放出する陰極はやや温度が低く,逆に電子が衝突する陽極は温度が高くなります。その結果,陽極から激しい蒸発が生じます。
 陽極から蒸発した炭素の一部は真っ直ぐ進み,陰極表面に堆積します。この堆積物中に多層カーボンナノチューブ(MWCNT:Multi-Walled Carbon Nanotube)が見出されます。
 また,蒸発物の多くは,放電空間外へ放出され,冷却されてススを形成します。このスス中にフラーレンが存在します。陽極の炭素電極に金属触媒を混ぜておくと,スス中に単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube)が形成されます。


 陰極の堆積物を示します。右側が堆積物を正面から見たもので,左側が堆積物の断面です。
 陰極堆積物は同心円状に2種類の異なる様相を持ちます。中心は,柔らかく,つやのない黒色をしています。ソフトコアの部分です。この中にMWCNTが存在します。ソフトコアの周囲には,固く,金属色を持つ堆積物が存在します。ハードシェルと呼ばれます。ここには,ナノチューブは存在しません。




 フラーレンの収率が雰囲気ガス種によって大きく変化したように,カーボンナノチューブを合成するにも,雰囲気ガスが影響するのでしょうか? 下の図は,アーク電流:100 A,放電時間:30 s とし,雰囲気ガスを,ヘリウム(He),水素(H2),窒素(N2),酸素(O2),アセチレンガス(C2H2),炭酸ガス(CO2) と変化させた場合の,陰極堆積物表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したものです。



 堆積物表面の様相は,ガス種やその圧力によって異なる様相を示しています。しかしながら,重要な知見は,アセチレンガスを除いては,どのガスでもナノチューブ(MWCNT)が当量合成できるという点です。アセチレンガスの場合でも,ナノチューブがはっきりとは見えませんが,ナノチューブの表面に不純物が付着しているようにも見えます。
 ナノチューブは炭素で構成されています。従って,常識的には,酸素雰囲気の高温アーク中では炭素が酸素と反応し,すなわち,燃焼酸化反応によって燃えてしまうため,ナノチューブは合成できないだろうと考えるでしょう。しかしながら,現実には,酸素雰囲気中でも,不純物があまり付着していないきれいなナノチューブが得られました。

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